視点B — 有効求人倍率 × 賃金変動クロス分析

「有効求人倍率が高いほど転職後の賃金は上がる」—— この直感的な仮説を複数統計の掛け合わせで検証する。 結論は反直感的だった。求人倍率が最高水準だった2018年は、賃金増加率のトップではない

!
反直感的な発見: 求人倍率ピーク年(2018年・1.61倍)の賃金増加率は35%。 一方、賃金増加率が最も高かった2024年の求人倍率は1.25倍(全期間の平均的水準)。 相関係数 r ≈ -0.15(弱い正の相関)

年次クロスデータ

出典: 有効求人倍率 = 厚生労働省 職業安定業務統計 / 賃金変動 = 厚生労働省 雇用動向調査(概算値)

有効求人倍率 賃金増加 変わらず 賃金減少 純増分(増−減)
2018年 求人倍率↑ 1.61倍 35% 30% 35% 0pt
2020年 1.19倍 33% 31% 36% -3pt
2022年 1.28倍 36% 29% 35% +1pt
2023年 1.31倍 38% 29% 33% +5pt
2024年 賃金増↑ 1.25倍 41% 29% 30% +11pt

なぜ「売り手市場=賃金アップ」にならないのか

マクロの有効求人倍率は全業種・全職種の集計値であり、個人が転職する特定業種の需給とは必ずしも一致しない。 求人倍率が高い年でも、転職者の多くが求人倍率が平均的な業種に移動していれば、賃金増加率は平均的な水準に収束する。

要因内容
業種ミスマッチ 求人倍率が高い業種(介護・建設)は賃金水準自体が低く、転職後の賃金増加に限界がある
スキルプレミアム IT・金融など高賃金業種は求人倍率指標に反映されにくい専門職採用が中心
交渉力の非対称 売り手市場でも転職者個人の交渉スキルが賃金増加の差を生む
集計の粒度 本分析は年次マクロデータのクロスであり、職種・業種レベルの相関とは異なる
この分析の次のステップ: 職種別・業種別の求人倍率と賃金増減をクロスすることで精度が上がる。 厚労省の「職種別有効求人倍率」と「雇用動向調査(産業別)」の照合を予定。

限界と留保

  • 利用できた対応年次は4年分のみ(n=4)。統計的な結論を下すには不十分。
  • 有効求人倍率は年度平均、賃金変動は暦年データであり、集計期間が厳密に一致しない。
  • 「賃金増加」の基準は雇用動向調査の定義に依存する(前職比較)。
  • 相関は因果関係を意味しない。交絡因子(景気サイクル等)の影響を除去していない。